議題設定と技術要素

世の中,ウェブに関して議論するとき,ブログがきた!,SNSが大流行!といったように提供サービス形態を枠組みとしたり,CGMとかSaaSといったいくつかの事象を抽象化して表現するワード(その際たるものがウェブ2.0ですけれど)をテーマにすることが多いですが,どうもそうすると議論が深まっていかないような気がします.

単体のサービス(もしくは類似のサービス群)がもたらす社会的影響の分析なんて,次のサービス形態が出現すればあっという間に役立たずになりかねない.だって集合知とか言っていたウェブ2.0ブームがある程度落ち着くと,急いでウェブ3.0っていって違う盛り上がりを作らなくちゃならない.

元マーケターとしては,理解・拡散されやすいキーワードで盛り上がりを演出することの重要性も理解しているつもりですが,研究テーマの発見とかにここまでに上げたような概念・ワードを使うとしょっちゅう軌道修正しなくちゃいけなくなって実績を積み重ねられなくなる危険性が高いです.

一方テーマ設定に技術要素を据えると,その技術要素の進化を見据えた上で,実装の展開や社会に対するインパクトを分析できるので,非常にスムーズかつスリリングな議論につながるうえ,長期間一定の視座をもって取り組むことができる気がします.

なんでこんな小難しい研究論をいきなり振りかざしているかというと,今日出席してきた公開セミナーBEAT Seminar「あなたに『ぴったり』な学びをかなえる技術 -教育における協調フィルタリングの可能性を考える- 」があまりに面白かったからです.

学外(というかキャンパス外)をほっつき歩いている暇があれば「藤沢にやって来い」といわれる危険性を感じて,あまり普段の行動はこのブログにアップしないのですが,今日はあまりに面白かったので,ついついエントリを起こした次第.

私の場合は「メタデータ技術を起点に置いたプラットフォーム&社会分析」を研究分野においていますが,今回の議論は「協調フィルタリング」を起点において「教育」分野における実装の可能性を探るというものでした.もちろんこのセミナーを主催する東大情報学環ベネッセ先端教育技術学講座:BEATは,教育というテーマが先にあって,そこにどう技術をもってくるかというのが基本姿勢だと思いますが.

協調フィルタリングとはアマゾンの商品推薦などでおなじみの「同じ商品を買ったことがある人同士は嗜好が似ているはず→だから同じ商品を買った人が,その他に買った商品をお薦めしたら気に入ってくれるに違いない」という考え方で,購買履歴などのデータから商品(システム設計によっては人という場合もあります)を推薦する計算手法(アルゴリズム)のことです.(もう少し厳密な定義や技術解説は,ググって調べてみてください.拙書『ウェブは菩薩である』でも,超簡略化した説明はしていますが.

このセミナー,前半部分は純粋な協調フィルタリング技術の解説と,現在提供されているサービスをベースにしたケーススタディ的分析という議論の土台作り.後半が教育の現場・プロセスに応用することを前提とした大規模ブレインストーミングといった形でした.前半できちんと技術に対する復習と現状動向を把握することができたので,それだけでもお得なセミナーだったわけですが,協調フィルタリングを教育の現場・プロセスにインストールするための議論がものすごく刺激的でした.

まず先に書いたとおり協調フィルタリングは,現状アマゾンなどマーケティングの分野で最も活用されています.つまり“欲しがってくれそうなものを効率的に見つけ出す”ために用いられているわけですが,教育は欲しがっているものばかり与えるわけにはいきません.ですから,どういった分野やプロセスで,どういったことに配慮するべきか,という潰していかなくてはならないポイントが多数あるのです.ただし,そういったポイントをきちんとクリアしていけば,これまでにない新しい形の教育形態・プロセス・メソッドが開発できるかもしれないわけで,その可能性にわくわくできるネタなのです.

今回の議論では,導入=協調フィルタリングを教育の場に持ち込むことの意義や可否に関することが中心だったのですが,問題をきちんと整理・分類し,体系だったポイントにしていくとかなり面白い議論に発展していきます.今日は懇親会で軽く質問させていただいただけですが,工学的・情報科学人工知能研究的議論から認知科学や心理学的な議論まで,縦横無尽に楽しい議論が展開できると見ました.(超僭越な言い草だ.すみません.)

脈絡無く書いてみましたが(ここまで読んでいただいた方すみません&ありがとうございます),要は

  • 議題設定は,要素技術を据えるのがよい
  • 協調フィルタリングと教育といった「特定分野に技術要素を持ち込む」という議論は面白い
  • セミナーを主催していただいた皆様,登壇された皆様,懇親会でお話させていただいた皆様,ありがとうございました
  • 人間酔っ払うと,ついついしゃべりすぎるので,反省せねば

というお話でした.このエントリも酒が入って書いているので,ひどい文章になっているからもう一つ反省ですね.