書評:なぜコンピュータの画像はリアルに見えるのか

NTT出版の神部様より献本いただきました。御礼申し上げます、、、、といいますか、この献本はこの本を読んで、表現を磨きなさいという担当編集者からのメッセージだと受け取っておきましょう。この本の著者タイトルは『なぜコンピュータの画像はリアルに見えるのか』であり、確かにコンピュータグラフィックスの精度向上を支える技術の解説書であることは間違いないのですが、それを視覚(生理学)、光学(工学)の基礎の基礎のところまで話を広げ、広げているのにストーリーを破綻させず、なおかつより広い読者層に対して興味を惹かせるというこの手技、これには脱帽いたしました。

書き手の立場からの感想はこれくらいにしておいて、読み手としての感想をここから。個人的にはコンピュータグラフィックスの表現技術って、あまり興味はなかったんです。なので、『なぜコンピュータの画像はリアルに見えるのか』というタイトルが大きくレイアウトされている表紙を見て、あまり食指が動かなかったというのが正直なところ。
ところがページをめくり始めるとこの印象が一転します。プロローグでは、いきなり人間がもつ5つの感覚器=5感の説明から始まります。つまり、単に表現技術の解説じゃなくて、「人間が世界をどう解釈するか。人間がとっているその方法を理解することにより、(コンピュータ以外の全ての人工物において)インターフェイスはどのように設計されてきたか」という壮大なスケールでものがたりが構成されることが示されるわけですね。本文で取り上げているトピックもGPSや音楽のコード進行など、一見グラフィックとは関係なさそうな、でも原理の部分で繋がっているという絶妙なものばかり。サブタイトルの「視覚とCGをめぐる冒険」の方が、正しく本文の内容を表していますよね。日常生活の中にさりげなく埋め込まれた技術をピックアップしたり、ひとつの原理が意外な形で活用されている事例を提示してくれたりと、まさしく冒険活劇のように読者を飽きさせない構成になっています。

あと、エピローグで述べてられる結論が、私が最近痛感していることと全く同じだったのが驚き。この部分を少しだけ引用させていただくと、、、

現在は「作り出された結果」よりも「それを作り出すときの考え方」自体がますます重要になりつつあります。答えよりも、それをどう生み出したのか、その計算式こそが価値を持つようになりました。
〜中略〜
何かについての考え方は、コンピュータを使えば高速に大量に安価に実行できます。そのようなコンピュータが激増することで、私たちの労働の質が本質的に変化している瞬間が、まさに現在なのです。

プロセスを実行するコストが著しく下がっている現在、プロセスそのもののもつ価値が増大しています。この根本的な価値創出パラダイムの変化が、経済に大きな影響を与えているわけです。

この本を読んで、人間の持つ「感覚」について理解し、コンピュータ(ネットワーク)がもたらしている効果についてじっくり考え直してみてはいかがでしょうか。

なぜコンピュータの画像はリアルに見えるのか―視覚とCGをめぐる冒険

なぜコンピュータの画像はリアルに見えるのか―視覚とCGをめぐる冒険

なお、この本の書評はid:yomoyomoさんも書評されています。(YAMDAS更新(梅津信幸『なぜコンピュータの画像はリアルに見えるのか』) - YAMDAS現更新履歴)。