モンスター銀河狩り

今日は本の紹介を.

モンスター銀河狩り (やりなおしサイエンス講座)

モンスター銀河狩り (やりなおしサイエンス講座)

この本は『ウェブは菩薩である』を担当いただいているNTT出版神部さんから献本いただいたものです.ありがとうございます.神部さんはこの本も担当されておりました.

さて,あなたは研究者,だとか,大学院や研究所で研究している人と聞いてどんな人となりを思い浮かべるでしょうか.最近,初対面の人に職業を聞かれて*1「研究所の研究員やってます」と答えると,「勉強好きなんですね〜」という言葉とともに,距離が30cmくらいは広がった感じになるという,,,,参った.

「勉強好きなんですね〜」といったあなた,そして研究者に対しきまじめでカタイという先入観を持っている方にこそ,この本を読んでほしい.この本は天文学についての本ですが,著者であり愛媛大学宇宙進化研究センター長の谷口義明教授のキャラクターが全面にフィーチャーされていて,それがまた面白いのです.だって,プロローグを読み始めればいきなり,ロングコートにサングラス,タバコをふかすデューク東郷か?と見間違えてしまいそうなダンディなお姿が目に飛び込んできます.

このモンスター銀河ハンター谷口教授の名言を少し紹介しましょう.

「やれるか,やれないか?」
ではない.
「やるか,やらないか?」
である.この二つの問いの違いは計り知れないほど大きいことに,多くの人は気がついていない.しかし,私たちは常にこの差を理解するように,教育を受けてきているのだ.研究者,それは因果な商売である.

ひゅーっ.しびれますな.

さて,この本で取り上げられているのはわれわれが存在する地球が所属する天の川銀河の数十倍の大きさをもつ銀河の発見・観察競争です.20世紀に私たちは銀河の果てを目指して航海を続ける宇宙船の物語に感動していたわけですが,科学の現場はもっと進んでいるわけです.そう,宇宙のかなたに存在する巨大銀河を見つけ出して,宇宙誕生の秘密を探ろうとしているわけですから.

モンスター銀河研究の歴史は,そのまま宇宙の遥か彼方を探る観察技術発展の歴史です.可視光から赤外線へと新たな望遠鏡技術が生まれるごとに,全宇宙空間中の観察可能範囲が広がり,それだけ発見が生まれるというわけです.ところが,遠くまで見通せるからといって,手早く隅々まで観察できるというということにはなりません.広大な宇宙の中で,「どの部分」を観察するか,どういった方法で観察するかという観測方針に対する決断の持つ重要性がますます高まってきているのです.そうした状況が前提にあっての「やるか,やらないか?」という台詞なのですね.*2

この本には,銀河に対する基礎知識,銀河(宇宙)観測技術開発の歴史,学会という世界の雰囲気,そして研究者という人種の特徴など,いろいろな要素が詰め込まれています.どれも一瞬とっつきにくそうに見えて,ロマンに溢れている世界です.このロマン,共有してみませんか?

2008年7月5日 追記

初出の文で,谷口教授の所属先が間違っておりました.謹んで訂正いたします.

*1:著書に「合コンのアドレス交換とマイクロフォーマットの意外な関係」という章をつくっているにもかかわらず,合コンでまともな成果が挙がらないとなると,著者の面目が,,,,

*2:この台詞を読んで,やる夫,やらない夫を思い浮かべてしまったあなた,,,,私と仲間かも,,