週刊SWXG: W3C Social Web Incubation Group 電話会議速報

2010年に入ってからのHot Topic

先週のSWXGの議事録が公開されていなかった件ですが、今日チェックしたらアクセス可能でした。議論としては先週来内容が継続していますので、このエントリでまとめてお伝えしたいと思います。

XGとしての活動期限が3月末に迫っている状況下、優先順位が高いトピックは

  • XGの報告書の内容を詰めること
  • 4月以降の活動形態を決めること

の2つです。

もちろん他にも継続的にW3C外との規格開発・普及活動との連携をどうするか(ゲストスピーカーとして招くキーパーソンの選定、コミュニケーションをとるために参加/チェックすべき会議やイベント)という検討も並行して行うわけですが、なにせもう1月も終盤。上記課題の結論を導く期限がかなり迫ってきているのです。

報告書作成に向けて

SWXG報告書の内容は、基本的に2009年に行われたWorkshop on the Future of Social Networkingで提言された領域に関する検討結果をもとに、今後のW3CのSocial Web領域に関する活動形態に関して提言するものになります。その内容は既にWikiにおいて編集作業真っ只中であり、現在進めているのはWikiのブラッシュアップと agendaの消化です。

その中で現在最優先に進められているのが、10ヶ月にわたり様々なゲストを迎えて行ってきた議論を踏まえた、Social Web Frameworkの再定義です。この作業は電話会議実施の前から、メンバーのAnita Döhler (vodafone) によるMLポストHigh-level social web guiding principles to SWXGによって始まっています。このポストで叩き台として提出された5原則は以下の通りです。

  1. What you see depends on who you are. 何が見えるか(何をコミュニケーションによって受け取るか)はあなたが誰か(自身の人格)に依存する。
  2. Once defined, you can use your connections and relationships, across different Social Networks or Social Applications. 一度人格が規定されれば、複数のソーシャルネットワークやソーシャルアプリケーションを横断して人間関係を利用できる。
  3. You can expose your content (User Generated Content) to different Social Networks or Social Applications, without the need to store the content in these networks/applications. 自身が生成したコンテンツを複数のサービスにて公開することができる。各々のサービスごとにアップロードする必要はない。
  4. You can define the access control on a per item basis, either per contact, or per group. アイテムごと、コンタクトごと、グループごとにアクセスコントロールを設定できる。
  5. You can communicate with connections no matter which Social Network or Social Application you share. 利用ソーシャルアプリケーションを超えて自由にコミュニケーションすることが可能である。

※ソーシャルアプリケーションの定義は後述します。
fromHigh-level social web guiding principles to SWxG

この原則を煮詰めていくのと並行して、こちらのSocialWebFrameworksをまとめていくことになります。そしてそこには用語の定義(terminology)も含まれます。1月20日のteleconは用語の定義に関する議論となりました。SWXGでは、既にWikiSocialWebFrameworks - Teminologyの項目を設けて議論を進めているですが、最終報告を前に、これをきちんと見なおそうというわけです。

Social Web普及に関する活動は、W3C以外にも多くのところで行われています。W3Cはどこぞの記事に書かれたように、お墨付きを与える機関ではなく共通のルールをみんなで見出すための場所なので、まず最初に行うことは既存の定義をピックアップし、マッピングすることとなります。というわけで、今回とりあげられたもののリストを以下に挙げておきます。

この他にもまだあるはずで、みんなで探してこようということになっています。私も探しますが、読者の皆様も、適当なものがあればコメントなどでお知らせいただけると幸いです。もちろん日本語のもので大丈夫。(むしろその方が、私が提言する価値があるかも)日本の現状も*1反映させる必要があると思いますので。あと、訳語についてのご意見も歓迎します。

Digital Identity? Persona?

ここからは、XGでの議論と私自身の考えが混じってきます。表記上、どちらであるかは特定できるようにはしておきます。私の意見、XGでの現時点でのコンセンサス、W3Cとしての判断は全て同一ではありませんので、留意ください。

SWXGでは、現在TerminologyをWiki上でまとめています。この回に検討の俎上にのぼったのはIdentityについて。WikiのTerminologyで、Identity+関連する用語の定義は以下のとおりになっています。

  • Social Web User: The Social Web User is a unique individual (unique DNA, one person). 固有の人物
  • Identity: The unique single identity of a Social Web User. A user has one and only one unique conceptual identity which contains all the information about the user. It is the receptacle for all the user’s profiles (the identity service provider can point to the profiles which are actually distributed) and over which the user has all control from an identity management interface. ソーシャルウェブ利用者がもつ固有のID。利用者は本人に関するあらゆる情報をふくんだ唯一無二のIDをもつ、、、、、

、、、ん?この定義では個人とIDが完全に1対1対応となっていて、複数のIDを使うケースが想定されていないのではないか、、、と思いきや(そういう質問を僕は会議でしてしまったわけですが、、、)

  • Profile: A single representation (personae) of a Social Web User. The user can have an unlimited number of profiles defined within the Social Web. ソーシャルウェブ利用者の単一の表記もしくはペルソナ。利用者はソーシャルウェブ上で自信を定義するプロフィールを無制限にもつことができる。

となっているので大丈夫、ということになっています。ただ、そうなるとIdentityっていう言葉が本当にいいの、とか、"A user has one and only one unique conceptual identity"の部分は変更すべきではないか、とかということになると僕は思います。議論の中では

Kaliya: is "identity" an "aggregate set of all profiles" - something more descriptive.

という発言も出てきているのですが、それは実情とはずれているなぁ、と。私は

yoshiaki: In Japan many people use more than one identity, one name, such as pseudonom. So many cases were it is not adequate to use a single profile.

日本では、という前置きをつけて、疑問を提起しましたが、別に日本だけの慣習ではないはずです。ここら辺の議論はもう少し必要なのだと思います。ちなみにIdentity Commonsでは、Identityという項目はなく、Digital Identityという項目のみが存在します。その定義はサービス提供者が発行するIDを指しているように読めます。

また、"Persona"という語を使う提案もなされています。Identity CommonsのLexiconでは

A preexisting Digital Identity that a user through an Agent has the ability to select and use to represent themselves in a given Identity Context.
もともと存在するデジタルアイデンティティ。(ユーザ)エージェントによって文脈の中で個人を特定したり抽出したりするのに用いられる。

となっています。個人的にはID Commonsの定義は的確だと思いますし、"persona"に一票なのですが、どうなるのでしょうか。議論は継続しています。

あとは、identityを構成する要素をセマンティックウェブ風にpropertyと呼ぶか、attributeとするかといった問題提起も出されています。

と、今回は相当盛り沢山な内容になりました。しかも、MLでの議論も活発になってきています。さすが、XGの活動期限が迫っているだけありますね。ということで、今後も引き続き、XGの活動・議論の内容をご紹介しつつ、積極的に議論に参加して行きたいと思います。日本からの参加は私だけなので、皆様のご意見も頂戴できれば、提案していくことも検討したいと思いますので、ぜひ、ご意見をお聞かせください。

*1:日本独自の、だとか国民性、だとかという捉え方には私は賛同しかねます。ウェブアクセス環境の広がり、モバイルインターネットの普及やアプリケーション特性の進化など、さまざまな変数があるのですから。ただし日本の慣習が無視されることは避けなければならないと考えています。