週刊SWXG Tim Berners-Lee ソーシャルウェブについて語る

長らく失礼いたしました。さすが年度末だけあり、なかなかこのブログの更新に手をつけられていませんでした。今回は先週2010年3月3日に行われたteleconferenceのサマリをお伝えします。この週のアジェンダはこちら

SWXGの活動期限を前に、報告書作成や4月以降の活動内容・方針に関する議論が続き、あまりブログでは取り上げられにくい話題も多かったのですが、今日はTim Berners-Leeがソーシャルウェブについてプレゼンテーションするということで、何はともあれその内容を紹介できればと思います。今回はTimのプレゼンテーションのサマリーがMLにポストされましたので、そちらを基に解説します。(誤訳などがあれば、コメントいただければ幸いです。)

Re: Summary of SWXG Telecon With TimBL 3/3/2010 from Alexandre Passant on 2010-03-09 (public-xg-socialweb@w3.org from March 2010)

前提としてのおさらい。Social Web, Semantic Webと学術研究との関係性についてまとめられたスライド by Fabien Gandon

Tim Berners-Leeが最近熱心に取り組んでいる活動としては、Linked Open Data(LOD)の普及というものがあります。この解説はセマンティックWebとLinked Data (武田英明先生の解説)を参照いただくとして、このXGはソーシャルウェブをテーマとしたグループです。ということで、今回のプレゼンテーションは、Linked Data・・・・セマンティックウェブとソーシャルウェブの関係性を中心にしたテーマで行われました。本論であるTimBLのプレゼンテーションの前に、SWXGメンバーのFabien Gandonによるプレゼンテーションを御覧下さい。こちらのプレゼンテーションでは、ソーシャルウェブ=ソーシャルグラフ研究においてセマンティックウェブ技術がどう関連しているかについて解説されています。

semantics in social networks by Fabien Gandon (Slide Share)

Tim Berners-Leeのプレゼンテーション

プレゼンテーションスライドは以下のリンクを参照ください。

今回のプレゼンテーションは、サマリがMLにポストされました。ですから、詳しく知りたい方は上記スライドとMLポストのリンクをご覧いただくとして、ダイジェスト的な解説をここでは日本語でお伝えします。

※MLポストのリンク

Linked Dataの4原則

既に触れたとおり、このプレゼンはLODの概念を理解していることが前提となります。Tim自身も簡単に触れていますし、詳細は前節を参照していただきたいのですが、とりあえずLinked Dataの4原則というものがありますので、ここで取り上げておきましょう。

  1. Use URIs as names for things :モノ・・・といいますかリソースはURIによって命名される
  2. Use HTTP URIs so that people can look up those names: 名称はHTTP URIにより探索される
  3. When someone looks up a URI, provide useful information, using the standards (RDF, SPARQL) : URIを検索すると、RDF/SPARQLのような標準技術を用いれば有益な情報を得ることができる
  4. Include links to other URIs. so that they can discover more things: 更に多くの(関連)情報に到達できるよう、他のURIへのリンクが含まれなければならない
サイロに閉じ込められたソーシャルウェブ

Starting with the big picture. Social networks are doing well. However, after some time there tends to be a limitation with the walled garden approach. A user in one silo expresses frustration, when they try access friends and photos on another silo, but are unable to do so, due to a lack of openness.

ソーシャルネットワーク(ソーシャルサイト)は順調に普及している。しかし壁に囲われた庭的なアプローチのおかげで制約ができているのもまた確かだ。サイロに閉じ込められたユーザはフラストレーションをあらわにしている。というのも他のサイロ(=他サービス)に登録されている友人や写真にアクセスしようにも各サービスがオープンでないためにできないからだ。

サイロの壁を乗り越える方法

サイロの壁を乗り越えるための方策として、

A better solution is to allow APIs for servers, on different sites, to exchange tweets with each other.

よりよいやり方は他サービスのサーバへのアクセスのためのAPIを公開してポストを互いに交換できることだ。

APIの開放によるサービス間の相互アクセスがあると提起しています。しかし、いくらAPIが公開されているといっても、それは十分ではないと指摘します。その理由として、、

However, APIs are fundamentally poor, for the reason that they hide the underlying data.

でもAPIでは根本的に不十分なんだ。というのも、(APIで目的のデータをそれ単独で抽出したところで)他にどんなデータがあるかまでは隠されたままだからだ。

API経由で画像などのファイルに外部からアクセスできたとして、それだけでは他のファイルやそのファイルをアップロードした人に関する情報にたどり着くことはできません。これ、先程のLOD基本原則の4つ目に合致しませんよね。なので、サービスを超えて届けたいデータはいちいち公開・共有の設定をしなければなりません。これは面倒くさい。というわけで、

One important aspect of this is to determine who gets access to what. You need a system of access control, to keep data private and safe, as necessary.

誰が何にアクセス出来るかを決められることが重要。つまり、データを必要に応じて非公開であったり安全な状態に保つことができるようにアクセスコントロールの機能がシステムに実装されていることが必要だ。

となるわけです。

Linked Dataという共通インフラ

そして

The sanest way to design access control is to use the same infrastructure for this data, as you do for linked data itself (ie give it a URI and allow linking). After all, access control is simply another type of data. And we already have the technology for working with and editing data SPARQL (Update), WebDAV etc.

最も誠実なアクセスコントロールの実装方法は、Linked Dataに対し共通のインフラを使うというやり方だ。(つまり、URIを付与し、リンクさせる。)結局アクセスコントロールとは別の種類のデータにほかならない。そして既に協働したりデータを編集したりするための技術:SPARQLやWebDAVが既に存在する。

ここで

After all, access control is simply another type of data.

というのは、LODであれば、データリソースつまりRDF文章には関連するリソースのURIが記述されているはずである。つまりデータそのものの中に(特定リソースへのアクセスを提供する)リンクが含まれているわけだから、アクセスコントロールはデータそのものでしょ、というわけです。

もちろんさらなる進化に向けてSocial Widgetなどの開発も進んでいます。また、
FOAF+SSLのように分散しつつもセキュアな形でLinked Dataをやり取りできるスキームも開発されています。

そしてこれが結論的な部分だと思うのですが、、

As an aside, one very interesting point is what happens in computer science when you make variables global. When you do it with some programming languages, they die. When you do it with Hypertext, you get the Web. It turns on its head many design models, but using a top down approach, rather than bottom up. But it's the only way you can scale something with the Web.

変数をグローバルにしたときにコンピュータサイエンスにおいて生じる現象は興味深い。もしそれをプログラム言語でやってしまえば、その変数は機能しないであろう。それをハイパーテキストで行えば、ウェブになる。それは多頭性のモデルだが、ボトムアップではなくトップダウンのアプローチなのだ。しかしこれがウェブ上で何かをスケールさせる唯一の方法である。

Linked Dataの基本構造であるRDF/XMLは複数の名前空間を混在して用いることができますから、確かに変数がグローバルに機能できてしまうわけです。ただし、1つ1つの名前空間の中は統制されなければならないわけなので、多頭性なのにトップダウンという不思議な?構造になるわけです。

この後は、モバイルだけでなくPC Webでもアプリケーション販売ビジネスに変革が起こるであろうという予言でプレゼンは締められ、質疑応答に移ります。MLのポストには質疑応答まで全て記載されていますから、興味のある方は是非参照してください。